人間/エージェントとの相互作用に着目した意志決定行動の研究

350603308  廣瀬 智司

論文要旨

近年コンピュータの発達とインターネットの普及により,人間とコンピュータ(エージェント) とのインタラクションの機会が増加し,その重要性は今後さらに大きくなると予測される.人間とコンピュータあるいは人間と機械のインタラクションを研究している.Human-Computer Interaction(HCI) 研究では,「属性」や「行動」といった概念に着目しながら,ユーザとしての人間の認知や行動を解明してきた.ここでの「属性」とは「相手に対する認識」(相手が人間であると思うかコンピュータであると思うか) であり,「行動」とは「実際に何をするか」(実際に人間のような高度な行動をとるかコンピュータのような機械的な単純な行動をとるか) ということである. 先行研究では,協同問題解決に取り組む際に,協同相手の「属性」や「行動」が問題解決者の問題解決行動および互恵的行動にどのような影響を及ぼすかが検討された.実験の結果,問題解決行動においては協同相手の行動による影響のみが見られ,協同相手の属性による影響は見られなかった.また,互恵的行動においては属性と行動の両方の影響が見られた.そこで本研究では,個々の最適な選択が全体として最適な選択とはならない意志決定課題に取り組む際に,協同相手の「属性」や「行動」が,意志決定行動者の「意志決定行動」ならびに「協同相手の対人認知」にどのような影響を及ぼすかを検討する.実験では,教示により協同相手の属性を操作し,実際の協同相手が人間である場合とエージェントである場合を設定することにより行動の要因を操作した.実験は,2要因の被験者間計画で行われた.第1要因は協同相手の属性であり,人間教示とエージェント教示の2水準が設定された.第2要因は協同相手の行動であり,相手が人間の場合,協調的な行動を取るエージェントの場合,裏切り行動を取るエージェントの場合の3水準が設定された.大学生145名が授業の一環として実験に参加した.実験結果の概要は以下の通りである.まず,裏切り回数に見られる意志決定行動は,協同相手の「属性」と「行動」の両方によって影響を受けた.とりわけ,属性の要因の影響が強く現れ,被験者が協同相手に対し,エージェントという認識を持つと裏切り行動を多く選択する結果となった.また,活動性,社会的望ましさ,個人的親しみやすさに見られる協同相手の対人認知に関しても,協同相手の「属性」と「行動」の両方によって影響を受けた.特に,社会的望ましさと裏切り回数,個人的親しみやすさと裏切られ回数の間に相関が見られた.